パリ在住のフードジャーナリスト
伊藤文さんのコラム
ラグジュアリーな
パリのフード事情
Moët In Paris by Allénos/
モエ・イン・パリス バイ・アレノ
モエ・エ・シャンドンの
ポップアップレストラン、
3つ星シェフ、ヤニック・アレノの居城に
夏季限定オープン
2024年8月19日(月)
2024年夏、例年とは異なるイベント尽くしのパリ市内ですが、太陽と夕涼みを楽しめる屋外のテラスには、たくさんの人が集う季節でもあります。そんな心地よい季節、パリ7区にある、さまざまなフード施設が軒を並べる商業施設「ボーパッサージュ」内に、この6月1日、「モエ・エ・シャンドン」のポップアップレストラン「モエ・イン・パリス バイ・アレノ」がオープンしました。場所は3つ星シェフ、ヤニック・アレノさんのレストラン「ペール・エ・フィス パール・アレノ」です。
https://www.moetinparis.com/
アレノさんと「モエ・エ・シャンドン」との関係は今に始まったことではありません。「モエ・エ・シャンドン」のセラー・マスターであるブノワ・グエズさんとアレノさんは、2014年にシャンパーニュ地方エペルネーにある「モエ・エ・シャンドン」の私有地にて、コラボイベントを開催したことがあったのです。それは、モエ・アンペリアルとグラン・ヴィンテージのシャンパーニュと料理とのマリアージュを披露するというイベント。その出会いから意気投合し、信頼関係を培ってきました。アレノさんは、シャンパーニュと料理とのマリアージュに真摯に取り組んでくれるシェフだったのです。
今回のポップアップレストランのイメージに大きく貢献しているのは、そのインテリアデザインです。自然をテーマにした鮮やかでポップなデザインは、壁からテーブル、皿、メニューとあらゆるところに施されています。手がけたのは1996年生まれのシャルル・ドゥ・ヴィルモランさん。パリ・クチュール組合学校を卒業したあと、コロナ禍下で自身のブランドを立ち上げて、多くの人々の目に留まったことが、現在の活躍のきっかけになりました。フランスの権威あるモードのプライムとして知られるANDAM賞やLVMH賞にもノミネートされています。2021年からは「ロシャス」のクリエイティブデザイナーとしても活躍していました。
エネルギー溢れる力強さを、筆致によるムーブメントと原色で表していますが、そのデザインは、この度のポップアップで一番に打ち出しているシャンパーニュ「モエ・アンペリアル」のみずみずしい躍動感を表しているようです。ところで「モエ・アンペリアル」は、1869年に、「モエ・エ・シャンドン」を愛したナポレオン(皇帝/アンペリアル)の生誕100周年を記念して生まれた、メゾンを代表するシャンパーニュです。毎年100種類以上ものワインをブレンドし、最も高い完成度で普遍的に表現した味わいに作り上げることを誇ります。エレガントな熟成感と、果実味のあるフレッシュさは卓越したものと言えるでしょう。
ポップアップレストランは、9月の葡萄の収穫が始まるまでの期間、休日なくオープンする予定です。12時から深夜まで通しで利用できますが(但し、ランチは12時から15時。ディナーは19時から22時30分のサービス)、「モエ・エ・シャンドン」が1743年創業であることを祝って、毎日17時43分がハッピーアワーに。「モエ・アンペリアル」のグラスワインが半額になるだけでなく、シャンパーニュを使ったデザートも半額に、という嬉しいサプライズが。デザートは、夏の桃のコンポートとアイスクリーム、それにロゼのアンペリアルをシャーベットにしたものを散らした華やかな一皿です。また、モエのシャンパーニュをベースにした、ハイビスカス風味などのカクテルもサービスしています。
そんなモエのシャンパーニュがぴったりのメニューも魅力的でしょう。フレッシュな野菜を使った色とりどりのサラダやカルパッチョなどの前菜も豊富で、シェアしていただくのがおすすめです。黒オリーブのソースを添えたグリーン・アスパラガスや、ジューシーなトマトのサラダ、卵のゼリー寄せ、フォアグラのテリーヌなど。トマトソースのスパゲッティ、フレッシュアーモンドを和えたズッキーニのソテーといったベジタブルメニューも豊富です。3つ星シェフである、アレノさんのレシピだけあって、良質な素材使いはもちろん、繊細な味付けでいずれも絶品です。
日曜日のお昼は「LE M'UNCH(ル・ミュンチ)」とよぶブランチをサービスしています。ブランチと「Moët」のMの造語で、楽しさを表現。サーモン、ブラータ、トマトのサラダに、卵料理を追加できます。辛口の「モエ・アンペリアル」もついた65ユーロのセットコースで、天気の良い夏の休日の特別感あるチョイスとしては最高の提案でしょう。
テラス席に加えて、オープンキッチンとカウンター席のある屋内レストランスペース、2階にあるワインカーヴ、ラウンジスペースもあり、9月の閉店まで様々なイベントも企画されています。この夏の魅力的なスペースとして、多くの期待が集まっています。
Photos/Virgile Guinard, Simon Detraz, Aya Ito
フードジャーナリスト 伊藤 文Aya Ito
1998年より、在仏食ジャーナリスト・アナリストとして活動。
数々のメディアでの取材・執筆、食関係の本の出版、翻訳の経験、また食分野で活躍する様々なタレント(経営者、シェフ、生産者など)との深い交流を生かし、食を通して日仏をつなぐDOMAを創立(在仏)。
2017年には、パリ12区バスティーユ界隈にショールーム・アトリエ・物販店「atelier DOMA」をオープンする。
和庖丁の販売、メンテナンス、研ぎ教室を中心に、日本の食文化やものづくりの精神を伝える事業も展開する。