西武 そごう

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パリ在住のフードジャーナリスト
伊藤文さんのコラム
ラグジュアリーな
パリのフード事情

「ドメーヌ・ドゥ・プリマール/
Le Domaine de Primard」

2024年4月22日(月)

「週末になるとパリ郊外に出て、緑に囲まれた場所で息抜きをする」というのが、コロナ禍を経たあとのパリジャンたちの習慣になりつつあることを感じています。腕のあるシェフたちも、パリを離れて、生産者により近い田舎に、自身のオーベルジュやレストランを構えて、自然のリズムとともに料理を提供するということに、価値を見出すようになったと思います。そんな背景の中、ひときわ熱いまなざしを集めているのが2021年にオープンした「ドメーヌ・ドゥ・プリマール」です。

パリから西方に70キロほどの場所。イル・ド・フランスとノルマンディ、サントルの3つの地方が集合する狭間に位置する、ガンヴィルという村にあります。モネの庭園で有名なジヴェルニーも、北に車を走らせれば、それほど遠くない距離にあるのも魅力でしょう。
約40haの広々とした敷地。森の中に現れるしっとりとしたメインの邸宅の品格に心を奪われます。18世紀某公爵によって建てられたこのシャトーは、なんとあの大女優カトリーヌ・ドヌーヴが35年間パリから離れた別宅として滞在した愛邸でした。

整備された庭園は特に印象的です。手がけたのは、ルーヴル美術館に対峙するカルーセル庭園を手がけたことでも知られる大造園家のジャック・ヴィルツとのこと。さらに、花の中でも一際バラを愛するカトリーヌ・ドヌーヴは、250種類ものバラの苗木を植えさせていました。初夏にはバラがいっせいに咲き乱れるのですが、ドヌーヴが家主だった頃から庭園を見守ってきた庭師のジェラール・ジェルマンさんが今も手入れをしています。

そのため、庭園はいつも美しく整えられています。また敷地内には池が点在し、小川も流れており、船あそびや釣りも楽しめる理想的な憩いの場所といっていいでしょう。
パリからの交通便もよい。パリのサン・ラザール駅から郊外線に乗って約1時間。Bueil(ビュエイユ)という小さな駅に降り立ちますが、あらかじめホテルに連絡を入れておけば送迎車が迎えにきてくれます。駅から車で5分とかからない場所にあるのも魅力でしょう。

このホテルの料理長はロマン・ムデールシェフです。もともとは、パリのパラスホテル「プラザ・アテネ」のメイン・ダイニングだった「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」の総料理長を務めていました。アラン・デュカスの指揮下でしたが、自然を皿に載せることをコンセプトとして、地産地消、ローウェイストに取り組み、地球と人の健康に優しい料理で評判を得ていました。2016年にはミシュラン・ガイドの3つ星を獲得しています。
シャトーで提供する朝食から、ルームサービス、ピクニックセットまですべてムデールシェフが考案していますが、2022年にオープンしたガストロノミーレストラン「レ・シュマン」で過ごすひとときは、贅沢の極みです。

敷地内にあるレストランスペースの1角にあり、庭を眺めつつ、自然と一体化するように演出されているインテリアには、「ドメーヌ・ドゥ・プリマール」を含めて、現在11軒のホテルを展開しているオーナー、ギヨーム・フシェとフレデリック・ビウースの2人の思いが反映されています。「フランスの地域や遺産を保護しながら、フランス特有のアール・ドゥ・ヴィーヴル(生きる芸術)を未来永劫に伝えていきたい」というもの。ナチュラルなインテリアを考案したのも彼らです。野菜の球根のプランターをそのままインテリアとして取り入れているのもチャーミングなアイディアでしょう。

「ドメーヌ・ドゥ・プリマール」の敷地には有機農法による菜園があります。さきほどもお伝えした庭園を知り尽くす庭師のジェラール・ジェルマンさんが菜園も手がけていますが、ムデールシェフはジェルマンさんと語らいながら、その菜園で栽培した旬の野菜を皿に乗せていくので、味わいもひときわ美味しい。また、このドメーヌそばをシェフは巡って、さまざまな生産者、つまり、自家菜園だけでなく、他の生産者の野菜はもちろん、酪農家、果樹園など、この地域に根ざす優良な生産者を開拓して、この地域ならではの料理を作ります。素材とじっくりと向き合うからこその料理の美しさとおいしさは、自然の風景とともに体に染み渡るよう。自然の恵みの尊さを感じます。

料理の一例をお伝えしたいと思います。ノルマンディ産新鮮な帆立貝のボイルと、香ばしいかぼちゃに似たウリ科クルジュのケーク。ホタテとクルジュの甘みの相性が抜群です。キャベツと鶏のホワイトレバーとオイスターの組み合わせ。オイスターが絶妙な潮の香りをもたらしてくれる。ローズヒップ風味の野菜のチップ。季節の野菜を重ねた突き出し。野菜はすべて自家菜園のもの。

デザートの2皿。チョコレートムースにコーヒー風味のクリーム、フライにしたレンズ豆を散らして心地よい風味を追加。さまざまな柑橘類のコンポート。酸味の心地よいローズゼラニウムのソルベを添えています。一皿一皿から自然の力をいただくような体験ができます。天井が高く、自然の素材を使ったインテリアと呼応して、唯一無二のひとときを過ごせるでしょう。

また、カジュアルなビストロ「オクターブ」でも、ランチ・ディナーはもちろん、ビュッフェ形式の朝食までいただけます。天気の良い夏に広い庭のリンゴの木の下で食事を楽しむのは至福のひととき。羊や牛、鴨、鶏などの動物も敷地内を闊歩している。パリの喧騒から離れて、自然の只中に身を任せ、ゆったりと流れる時間を楽しんでみてはいかがでしょう。

Photos/©Maki Manoukian, Bruno Suet, Taisuke Yoshida

フードジャーナリスト 伊藤 文Aya Ito

1998年より、在仏食ジャーナリスト・アナリストとして活動。
数々のメディアでの取材・執筆、食関係の本の出版、翻訳の経験、また食分野で活躍する様々なタレント(経営者、シェフ、生産者など)との深い交流を生かし、食を通して日仏をつなぐDOMAを創立(在仏)。
2017年には、パリ12区バスティーユ界隈にショールーム・アトリエ・物販店「atelier DOMA」をオープンする。
和庖丁の販売、メンテナンス、研ぎ教室を中心に、日本の食文化やものづくりの精神を伝える事業も展開する。

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