パリ在住のフードジャーナリスト
伊藤文さんのコラム
ラグジュアリーな
パリのフード事情
ALCHIMIE Whisky / Chocolat
ウィスキーとチョコレートの錬金術
2023年12月8日(金)
クリスマスが刻一刻と近づいてきました。さまざまなラグジュアリーブランドは、クリスマスにぴったりのプレゼントを提案しますが、高級チョコレート店で知られる『ラ・メゾン・デュ・ショコラ』もそう。MOF(フランス国家職人章)のタイトルを持ち、2012年から同店のシェフ・ショコラティエを務めるニコラ・クロワゾー氏が指揮を取り、その持ち前のクリエーション力を最大限に生かすための様々な作品を、毎年生み出してきました。そして、今年のクリスマスのために生まれたギフトボックスにも注目が集まっています。
それは、ウィスキーとチョコレートのたぐいまれなコラボレーションによって生まれた、まさにボックス名である「錬金術」と呼ぶにふさわしいクリエーションです。
このボックスが生まれたのは、「ウィスキーのエディター」との異名を持つベンジャミン・クエンツ氏との出会いから。クエンツ氏は2016年に自身のウィスキー・ブランド『メゾン・ベンジャミン・クエンツ』を立ち上げていますが、既存のウィスキー・ブランドとは一線を画しています。なぜなら、自らをエディターと呼ぶ通り、味わいを編集することがこのブランドのコンセプトだから。すなわち、フランス各地を訪ね歩き、優れた蒸留所を探し当て、それらの味わいを知り尽くし、それらをブレンドすることで、味わいを着地させるというオリジナルな方法を取っています。そのやり方はまるで香水の調香師のよう。クエンツ氏ははじめに香りのレシピをイメージし、それに合わせてウィスキーをブレンドするのです。パリ7区にある自身のブティックは、すでにラグジュアリーブランドの仲間入りをしています。
この2人の出会いが「チョコレートとウィスキー」のマリアージュを生み出すことを考え出したのは、自然の流れでした。
クエンツ氏は、まず、チョコレートに合うであろう、ウィスキーを熟成したオーク樽を選び抜きました。ウィスキーを除いたばかりの空樽に、液体のチョコレートを温かい状態で注いで入れる。するとチョコレートはオークと接触することで風味を吸収し、さらにウィスキーの芳香を纏う。こうしたアイディアにクロワゾー氏が選んだのは2種のダークチョコレート。1種は、ナッツ感とスパイシーな香りが心地よいカリブ海・グレナダ島産。もう1種は、力強いカカオ感かつ柑橘系のフルーティーさもあるエクアドル産チョコレート。この2種のブレンドは、力強いオーク樽とウィスキーの芳香に負けずも、バランスよく取り込み、クリスマスの暖炉を彷彿とさせる深い味わいのタブレットチョコレートに完成しました。
そこで終わらないのが2人のクリエーション!クエンツ氏はチョコレートを熟成させた樽を再度使って、なんとウィスキー・リキュールを完成させたのです。それは、チョコレートの香りが閉じ込められた唯一無二のリキュールになりました。
先のタブレットチョコレートと、このチョコレートの香りのリキュールを納めたボックスは、350点だけの限定商品。シックな箱に納められたスペシャルボックスで、この冬を温める抜群のプレゼントになること、間違いありません。
Photos/Thomas Dellemmes, Laurent Rouvrais, Benjamin Kuentz
フードジャーナリスト 伊藤 文Aya Ito
1998年より、在仏食ジャーナリスト・アナリストとして活動。
数々のメディアでの取材・執筆、食関係の本の出版、翻訳の経験、また食分野で活躍する様々なタレント(経営者、シェフ、生産者など)との深い交流を生かし、食を通して日仏をつなぐDOMAを創立(在仏)。
2017年には、パリ12区バスティーユ界隈にショールーム・アトリエ・物販店「atelier DOMA」をオープンする。
和庖丁の販売、メンテナンス、研ぎ教室を中心に、日本の食文化やものづくりの精神を伝える事業も展開する。