19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで多色刷りの質の高い絵本文化が生まれました。その先駆けとなった画家の一人がエルンスト・クライドルフ(1863-1956)です。スイスのベルンに生まれたクライドルフは、東スイスにあった祖父母の家で幼少期を送り、豊かな自然に親しんで過ごしました。16歳でリトグラフ制作の技術を学んだ後、画家を志してミュンヘン美術アカデミーに入学しますが、学費を稼ぐための無理がたたって健康を害し、南バイエルンでの療養生活を余儀なくされます。しかしアルプスの大自然に抱かれた生活は、クライドルフが小さな生き物たちに目を向け、豊かな想像力を育む源泉となりました。1894年11月末のある日、季節はずれに咲く花の美しさにひかれて手折ったクライドルフはすぐに後悔し、はかない命を永らえようと絵に残します。このスケッチから構想を得て、さまざまな花や草などをバッタや蝶たちとともに擬人化した処女作『花のメルヘン』を1898年に出版。鋭敏な観察眼を土台として写実的に描いたアルプスの自然と、自由な空想を結び付けた、クライドルフ独特の世界が花開いてゆきます。
本展ではクライドルフ協会・財団とベルン美術館の全面的な協力のもと、美しい彩色が施された絵本原画を中心に約220点の作品でクライドルフの世界をたどるもので、日本で初めての本格的な回顧展となります。