酔っぱらい、廃兵、皺だらけの老婆、そして自画像と、40年足らずの短い画業で、常に自己の内面と向き合い、苦悩しながらも数々の作品を描き続けた画家鴨居玲(1928-1985)。
戦後創設された、金沢美術工芸専門学校(現・金沢美術工芸大学)に入学し、宮本三郎に師事。二紀会に出品して褒状を受けるなど、若くしてその才能を発揮します。しかし油絵制作に行き詰まり、油彩画から離れる時期もありました。その後、意を決して取り組んだ《静止した刻》で、1969年に安井賞を受賞。以後スペイン、フランス、そして神戸と生活の拠点を移しながら、鴨居独特の存在感のある画風を確立していきます。暗い色調の中、わずかな光で対象を表現した作品からは、鬼気迫る彼の心の叫びが聞こえ、見る者を引き付けずにはおきません。
1985年に鴨居が57歳の若さでこの世を去ってから25年が経ちます。首都圏では15年ぶりの大回顧展となる本展では、出世作《静止した刻》をはじめ、最も満ち足りた時を過ごしたスペイン時代の《私の村の酔っぱらい》、そして晩年の代表作《1982年 私》など、油彩、素描あわせて約80点を展覧します。さらにアトリエで制作する鴨居の様子や、作品の主題となったスペインの村人たちを写した写真も公開し、その制作過程の一端を紹介します。
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